ピロリ菌感染については、以下の4つに注意しないといけません。
①日本人の胃がん患者さんの99%はピロリ菌に感染しており、感染により胃がんの発癌リスクが跳ね上がる。
②若年者でも10%程度の感染率があり、おそらく親子感染と考えられている
③除菌治療(1週間の内服)でほぼ除菌できる
④除菌治療後も再燃のリスクがあり、胃がんのリスクがなくなるわけではない
以下に詳しく説明します。
日本人の胃がん患者さんのほとんど(99%)はピロリ菌に起因します(予防医療普及協会)。 2001年にNew England Journalに発表された論文で、ピロリ菌感染のない患者さん280人の中で胃がんができた人は0人であったのに、ピロリ菌陽性者1246人中の2.9%が発がんしたと報告されました。また、ピロリ菌を除菌することにより、発がん率が下がることもわかりました。年齢や性別などにより、発がん率の下がる程度が異なりますので、どの程度下がるかは、次の章でお示しします。
高齢者で感染率が高く、若年者で感染率が低いことをお聞きになった方もいらっしゃると思いますが、若年者でも、10%程度の感染率が想定されています。
ここから先は少しマニアックなので次の章にスキップしていただいても良いです。
そこで今回、日本人はどの程度感染しているかを日本内科学会雑誌106巻1号の「Helicobacter Pylori感染の疫学」からお示しします。
- ①出生年代別のピロリ菌感染率(平成4年時)
- これは、1992年にアメリカの消化器病学会雑誌Gastroenterologyに発表された、日本における出生年代別のピロリ菌陽性率です。御覧のように、1940年代以前に出生した方は、いわゆる発展途上国と同様の感染率ですが、日本の経済発展が進んだ1950年代以降のピロリ菌陽性率は低下しています。経済発展により上水道の設置などが進み衛生環境が改善したことなどが理由であると考えられています。したがって、1950年代以前に出生された方(年齢で言うと70歳以上の方は感染しているリスクが高いと考えられます。ピロリ菌感染で怖いのは、発がんですので、いままでに胃カメラを受診されていない方は胃カメラによるスクリーニングをお勧めします。
- ②平成22年から24年でのピロリ菌感染率とペプシノゲン法陽性率
平成22年~24年厚生労働科学研究「ピロリ菌除菌による胃癌予防の経済評価に関する研究」が行われました。上記図のペプシノゲン法というのは、萎縮性胃炎を反映したもので、ペプシノゲン法陽性であれば萎縮性胃炎が進行していることを表します。当時のピロリ菌陽性率で言うと、1980年代の陽性率が10%前後と、意外と高いことがわかります。
衛生環境が改善し、感染のリスクが下がったにも関わらず、ピロリ菌が10%程度感染しているのはなぜでしょうか?
2008年に札幌厚生病院と札幌医科大学が発表した論文(Pediatr Infect Dis J 2008)で、小児の陽性者の周囲の方々を検査して、ピロリ菌陽性者がいた場合にピロリ菌のDNAを調べた場合、母子で69%、父子で37%一致しました。つまり、親子間感染を起こしていることがわかりました。児と同胞の一致率は80%であり、小児感染の80%程度は家庭内感染と考えられます。母子と父子の一致率の差からすると、接触している時間の違いかもしれませんが、どのように親子間感染を起こすかはわかっていません。
また、成人になってからピロリ菌感染を起こしても、急性胃炎を起こすことはあっても、持続感染は起こらないと考えられており、10代までの感染が問題となります。
若い方の胃がん発生も起こりえますので、若年でも胃の症状が気になる場合は、胃カメラなどで検査をしてもよいかもしれません。
- ③これからの感染率の推移(Helicobacter Res 19 : 439―444, 2015)
- 今後のピロリ菌感染の推移を予測した図です。今後は、全世代にわたって、ピロリ菌陽性率は低下します。現在のピロリ菌除菌成功率は初回で80%以上を達成しており、当院でも積極的に行っています。ピロリ菌の除菌は1週間の内服によって行います。また、除菌治療の効果判定は、治療終了後の2~3か月の間に、尿素呼気試験(薬を内服して呼気を回収します)や、便中ピロリ抗原(便の提出をしていただきます)、内視鏡検査の再検査(除菌前に胃の粘膜があれている方は、除菌して落ち着いた状態で再検査したほうが、早期胃がんの発見がしやすいです)によって行います。ピロリ菌感染や除菌治療に関するご質問などがありましたら、受診時にお気軽にお聞きください。